数式が作れるようになるまでの長い道のり


有香に算数を理解させるためには長い時間と根気が必要でした(中には算数が得意な方もいらっしゃると思います)。二十歳になった現在、算数に関してはドンドン伸びるものでもないと感じています。継続しなければ忘れます。有香曰く

「数字が頭の中でごっちゃになってこんがらがる。そのごっちゃが滲んで見える」

 

生活するうえで、数字が分からなければ困ることや、伝えにくいことがあるのも事実です。

しかし、やみくもに教えたからといって理解するものでもありません。

 

算数には教えるタイミングがあるようです。時計を例にとると、

60までの数字の並び方が分からなければ時計は読めません。

2桁の足し算と引き算が暗算でできなければ、逆算して家を出る時間を決めるなどの、時計本来の使い方はできません。

教える段階に来ていない子供に教えると、子供は丸覚えして丸忘れします。親はイライラし子供は理解できない自分自身に苦しみます。その結果、親子関係が悪化します。

 

子供がある程度の年齢になれば、学習に関しては、教えるタイミングを熟知している専門家に任せるのが無難なように思います。

もう一つ、算数を理解させるために無くてはならない物があります。ズバリ、国語力です。

 

以下に、有香との取り組みの一部を掲載します。どなたかの参考になることがあれば幸いです。

                              (令和2年6月30日 記)

4年生10月

有香はお料理が大好きで、将来コックさんになりたいと言うので、料理を通して算数の勉強をすることにしました。

 

母親「大さじ1杯は小さじ3杯です」
有香「はい」
母親「大さじ3杯は小さじ何杯でしょう?」
有香「???」

『大さじ1杯が小さじ3杯』という意味が分からないんだと気付いたので、小さじに入れた砂糖を大さじに移し変え、小さじで3回入れると、大さじが一杯になることを確認しました。

大さじと大さじ1/2さじを使い、大さじ1/2さじに入れた醤油を、2回大さじに移し変えると大さじが一杯になることも確認しました。
母親「1/2というのは半分ってことよ。だから大さじ1/2のお醤油を2回入れたら、大さじが一杯になるの」

母親「大さじ1杯は小さじ何杯だった?」
有香「3杯」
母親「そうよ」
母親「大さじ3杯は小さじ何杯になる?」
有香「???」

絵に描いて説明しました。
母親「3+3+3でもいいけれど、3が3回だから3×3でもいいの」
母親「3+3+3は?」
有香「?」
母親「3+3は?」
有香「6」
母親「6+3は?」
有香「9」
母親「3×3は?さざんが」
有香「9」
母親「ほらね。足し算で計算しても、掛け算で計算しても同じでしょう?」
母親「大さじ3杯は小さじ何杯?」
有香「9」
母親「そうです。有香ちゃん、算数が出来ないとお料理は?」
有香「出来ない」
母親「算数をがんばろうね」
有香「うん」

この後、一緒に甘酢を作りました。
算数は難しいですが、好きなことを通して、毎日コツコツと勉強を続けたら、足し算や掛け算の意味を理解できる日が来ると思います。 

5年生4月

説明書を読むと、乾燥させたり焼く時間を除けば、所要時間は15分ほどと書いてありました。

とても作りたがるので、一緒に作ることにしました。

 

粉砂糖80グラムとアーモンドプードル35グラムが必要と書いてありました。

粉砂糖は一袋30グラム入りです。
80グラムをどうやって量ればよいでしょうか?

三袋を全部使うと90グラムになります。
二袋は全部入れて、一袋だけ20グラム使えば良いと分かるまでの説明に結構時間がかかりました。

 

アーモンドプードルは一袋35グラム入りで、使用するのも35グラムです。
こちらは何の問題もないと思いましたが、大きな間違いでした。
一袋に35グラム入っていて、35グラム使う場合、どれだけ入れた良いのでしょうか?
一般的にそんなことは思案しませんが、有香には分かりにくいようです。
この分かりにくさを理解してあげなければならないと思います。
何度も説明すると、『全部入れたらよい』と分かってくれました。

5年生5月

昨日、肉じゃがを作りました。お料理が好きな有香に調味料を入れてもらいました。

母親「お醤油を大さじ4杯入れて」
有香「1杯。2杯。3杯」
母親「全部で4杯入れるの。今、3杯入れたから、あと何杯入れたら良い?」
有香「1杯?」
母親「そうよ。4-3=1、あと1杯ね」
母親「お砂糖は大さじ2杯入れるの」
有香「2杯ね」
母親「これ(砂糖の容器の中に入っているさじ)は小さじ。大さじ1杯は小さじ3杯だから、大さじ2杯は小さじ何杯?」
有香「?」
母親「小さじ6杯ね。3かける2は6。さにが(3×2)?」
有香「6」
母親「6杯入れてね」


算数の学習には、こういうことの積み重ねが大切なんだろうと思います。 

5年生7月

有香は昨年の12月から週一回、専門家による学習の個別指導(学校とは無関係)を受けています。算数・国語・英語など、いろんな科目の勉強をします。
算数の学習を傍でみていて、あ~、こんなことが分からないのであれば、学校で授業(国語・算数・理科・社会など)の内容を理解することは難しいな~と思います。

 

問題
玉子が6個入った箱が2つあります。玉子は全部で何個ありますか?

有香の作る式
6+2=

絵に描いて説明すると、6+6=と分かります。


問題
赤組は15個玉を入れました。白組は9個玉を入れました。どちらが何個多く入れましたか?

有香は問題の意味が把握できないので、足し算か引き算か迷います。
おはじきを使って内容を視覚的に説明すると、余ったおはじきを数え、赤組が6個多いと分かります。
しかし、「答えは合ってるから式を作って!」と言うと、作れません。
また先生が丁寧に丁寧に説明をすると、意味を理解し、15-9=6と分かります。


お友だちが遊びに来ると、よくカルタで遊びます。枚数を数えて「勝った」「負けた」と盛り上がりますが、有香には何枚差で勝ったとか負けたとかが分かってなかったんだな~と思いました。

上記のような文章問題が理解できなければ、状況の理解や人の話を正確に聞き取ることは難しいだろうと思います。
計算は計算機を使えば出来ますが、内容の読み解きは、頭を使わなければ出来ません。
このような算数の文章題にコツコツと取り組んでいくことが、ものごとの理解力を深めるのではないだろうかと思います。

5年生2月

有香の気にかかることの一例
【算数】

問題「Aちゃんは人形を5個持っていました。3個なくしました。今、人形は何個ありますか?」
有香「え~、どこで~」

 

ずっと、『どうしてなくしたのか?』『どこでなくしたのか?』がとても気になるようでした。これでは計算にいきつきません。

最近、算数の問題に於いて、このようなことを気にかけることはなくなりました。

5年生2月

有香は簡単な演算(加算・減算・乗算)の計算はできます。
しかし、文章題になると「+」「-」「×」のどれを使って式を作れば良いのかに迷います。
12月から通い始めた個別指導での様子を見ていて、言葉の理解が完璧でないからだと分かりました。
普段の生活で、「貰う」「あげる」「くれる」などが曖昧です。
これらの言葉が分からなければ、式は作れません。式が作れなければ、当然ながら電卓は使えません。
算数の勉強には日本語の理解が不可欠です。
昨年の12月から、話の内容に応じて、「増えたの?」「減ったの?」と確認をするようにしています。
増えたか減ったかが曖昧な時には、物を使って、増えたか減ったかの確認をするようにしています。

ドリルの文章題に出てくる言葉の例
貰う→ 増える → +
釣る → 増える → +
産む → 増える → +
くれる → 増える → +
連れてくる → 増える → +
買う → 増える → +
バスに乗る → 増える → +

あげる → 減る → -
バスを降りる → 減る → -
食べる → 減る → -
使う → 減る → -
帰る → 減る → -

『算数は出来なくても生きていける』と思っていました。
しかし、簡単な計算が出来るということは、単に計算が出来るということではないと気づきました。思考力がつくということです。本人にすごく大きな自信がつくということです。
考える力と自信がつけば、本人の生活が楽になるでしょう。
分からないならもう良い…と、投げ出してはならないと改めて思いました。

5年生3月

…算数の文章題を解こうとしたときのことです

文章題
『はしを2本洗いました。あと2本洗わなければいけません。全部で何本洗うことになりますか?』

母親「読んでごらん」
有香「はしを、誰や?」
母親「人じゃない、全部読んで」
有香「はしを2本洗いました。あと2本洗わなければいけません。全部で何本洗うことになりますか?」
有香「4」
母親「何本って聞いてるよ」
有香「4本」

6年生8月

現在の有香が解けるのは、小学校1年生程度の文章問題です。
1年生程度の文章問題でも解けるようになるまでの道のりは遠かったです。
現在、お世話になっている個別指導の先生に出会わなければ、今でも出来なかったと思います。

私は文章問題(小1レベル)を読み解く力は、生活に必要だと思います。
文章を読んで式を作る思考力がなければ、物事の因果関係などの理解も難しいと思うからです。
計算は電卓があれば出来ますが、式が作れなければ電卓は使えません。

【比較的に簡単に出来る問題(内容が絵に描ける)】
●ビー玉を見せあいこしたら、ぼくは8個。みかちゃんは5個。けんじ君は7個だったよ。3人合わせると、ビー玉は何個かな?
●「ガム6つと、あめ8つ買おう」って思ったけど、お金が足りません。仕方ないので、ガムは2つへらすことにしました。お菓子の数は全部でいくつ?

【ちょっと難しい問題(日本語が分かりにくくて絵に描けない)】
●動物園のゾウさんは大の牛乳好き。毎日、7杯ずつ飲んでいます。3日飲み続けたら、全部で何杯かな?
●1日に7ページずつ本を読むと、5日で何ページ読んだことになりますか?

自分で絵に描けない問題は解けません。カレンダーなどを使い、絵に描いて教えると理解します。

算数の文章問題を絵に描けるかどうかで、日本語の理解力が分かります。
このような文章問題を何回も読み、絵に描き、式を作ることを積み重ねることが、思考力を伸ばすのではないかと考えます。
最近、有香自身が、算数が分かるようになったと感じるのか、毎日一生懸命、算数と国語に取り組んでいます。楽しそうです。

中学部1年生12月

クリスマスに、有香が「トナカイが人参を3本食べた~」と言うのを聞き、確か一昨年は「トナカイが人参を食べた~」だったなぁ~と思い返し、数への理解が深まると、自然に言葉に数字が入ってくるんだな~と思いました。

数を理解すると表現が豊かになるだけではなく、思考も変わるのではないかと感じています。

ダウン症のある子供に、数を理解させるのは並大抵のことではありません。
でも、遊びを通してコツコツ積み上げていき、諦めなければ(学校や親で無理なら第三者に頼むなど)、理解する日がくるのではないかと思います。(数列を唱えることと数の理解はまったく別物です)