高等学校での授業(2015年6月)

啓発の一環として、高等学校の1年生(320名)の授業でお話をさせて頂きました。写真などはスクリーンに映して見て頂きました。体育館での授業でしたが、皆さん真剣に聞いてくれました。

話にでてくる有香の詩の朗読を、放送部1年生の女子にお願いしたのですが、初見での朗読だったにもかかわらず、あまりにも上手で感動しました。体育館にどよめきが起こりました。おそらく、彼女の声で聴いた有香の詩は、その場にいた教師・生徒、多くの人の心に深く入ったのではないかと思います。耳に残って忘れられないその声に魅了されました。

 

余談ですが、後日、彼女の名前を検索したら、中学生時代のアナウンス部門での受賞歴がヒットしたので、なるほど、普通では考えられない上手さだったからなぁ~と納得しました。

そして今日(2020年7月19日)、この記事を書きながら久しぶりに彼女を思い出し検索したら、声のプロダクションに所属するタレント・ナレーターさんになっておられました。ご活躍を祈ります。


こんにちは 今日は皆さんに、娘のことについてお話ししたいと思います。 娘は皆さんと同学年、〇〇支援学校の高等部 1 年生です。 娘は感受性が豊かで、特技は言葉で人を喜ばせることです。 とても面白い詩を書きます。 私が最初に、娘の表現の面白さに気がついたのは、小学校 2 年生の時です。

有香「給食袋に怒られた」

母親「何て?」

有香「早くしなさい、有香ちゃんアホや!」

 

登校時「早く歩いて!」と数回言いました。急ぐと揺れる給食袋が、ポンポンと足に当たっ た時にこう言いました。 

小学校 3 年生の時の言葉です。

トイレから出てきた娘が「カブト虫みたいに水が流れた!」と言いました。

急いでトイレに行き、2~3回流して、ようやくカブト虫を発見しました。

 

私は娘の言葉にとても関心があったので、面白い言葉は書きとめてきました。

しかし、娘の内面に、傍で暮らす親にさえ分からない、豊かな世界があることには、なかなか気がつきませんでした。

娘の生活を一変させるような転機が訪れたのは、小学校 4 年生の 5 月 20 日です。

朝、偶然に、NHKニュースで、小学校の先生のお話を聞きました。

「子供には、例えば『冷蔵庫』のように、身近な物をタイトルとして与えると、とても面白い文章を書きます」というような内容でした。

 

私は娘に日記を書かせることに行き詰っていたので、『これだ!』と思いました。

娘と相談してタイトルを決め、「どう思う?」と聞くと、

「今日はピアノに行きました」

「今日は英語に行きました」

と、今日の出来事の羅列だけの日記を書いていた人と同一人物とは思えないような言葉が、口から溢れ出してきました。

 

それから丸6年になりますが、音が楽しい詩を数多く書いてきました。

5 月 20 日は、私にとって、生涯忘れることが出来ない日となりました。

 

皆さんは「NHKハート展」をご存知でしょうか?

「NHKハート展」とは、詩とアートを組み合わせた展覧会です。

障害のある人がつづった詩に込められた思いを、ボランティアで参加くださった著名人やアーティストが、「ハート」をモチーフにアート作品で表現してくださいます。

全国の障害のある人から寄せられた詩から選ばれた50編の詩が、50のアートと出会い新たなアートの世界を繰り広げます。

障害のある人もない人も、互いに理解し「ともに生きる」ことを目指して平成6年より開始し、今回で20回目を迎えます。

 

私の娘は、初めて応募した小学校 4 年生の時に初入選し、それから現在まで、5 回入選させて頂きました。

それでは、第 20 回展の入選作品をご覧ください。

 

 

この詩に作品を寄せてくださったのは、タレントの藤岡みなみさんです。

 

藤岡みなみさんのブログに、こう書いてありました。

「とっても素敵な詩なんです。ぜったい聞いたことのないユニークな表現が登場します。それでいてなんか共感してしまう。あったかい。」

 

「大腸に花が咲いた」からインスピレーションを受け、この作品を作られたとのことでした。

刺繍の作品です。

 

次に第 19 回NHKハート展の入選作品をご覧ください。

この詩がきっかけで、昨年、NHK・Eテレのハートネットテレビに出演させてもらいまし た。約 30 分の番組です。

 

東京からディレクターとカメラマンと音声さんが来られて、自宅・学校・英語教室・ピアノ 教室など、四日がかりで撮影が行われました。撮影後にも、ナレーションの確認などで、連 日、問い合わせがありました。 番組が完成したのは撮影から一月以上後のことです。 一本の番組を作るのに、これほどの時間と労力がかかるのだと知りました。 この番組の放送は、撮影から二か月後でした。 番組で、娘がどういう気持ちで詩を書いているのかを語った部分をお聞きください。 私も初めて聞いたので、驚きました。 

 

この詩には、キンタロー。さんが絵を描いてくださいました。 テレビ用とは別に、娘のためだけにビデオメッセージも下さいました。

 

放送後、ディレクターさんから、NHKに寄せられた反響の一部をお知らせ頂きました。

その中の一つをご紹介します。

 

有香さんの生き様に感動しました。

私たちは、身体に不自由がなくても、自分にできることはそんなにないと諦めてしまいがちです。

ですが、有香さんは、ダウン症であるにも関わらず、詩を通じて、世界中の人と繋がろうとしています。

自分が諦めなければ、世界はどこまでも広げられるのだなと思いました。有香さんの素敵な笑顔に、ありがとうを言いたいです。

 

私は娘が生まれたとき、もう、今までのような生活は出来ないんだと思いました。

でも、実際は違いました。

例えば、もう海外旅行には行けないと思いましたが、娘を通してカナダにお友達ができて、ツアーでは体験できない経験をさせてもらっています。少しご紹介します。

 

これは友人の住む地方都市に行くために、バンクーバーで乗り換える 18 人乗りの国内線です。本当に、いつも、地面を走っているんじゃないかと思うほど揺れます。 ちなみに、この冬は霧のために途中の空港でおろされ、えらい目にあいました。 

 

これは、カナダのごく普通のご家庭のクリスマスです。クリスマス休暇があり、家族がみんな集まります。日本の正月みたいな感じです。ツリーの下に綺麗にプレゼントを飾ってあります。

しかし、プレゼントの交換をすると、皆、包装紙をビリビリ破り、綺麗なラッピングがあっという間にごみの山になります。日本人には考えられない光景です。

 

夏にはトレーラーでキャンプに連れて行ってもらったこともあります。

キッチン・シャワー・トイレなどの設備があります。リビングルームとベッドルームもあります。

 

 

ホッケーの観戦も数回しました。夏でもリンクは恐ろしく寒いです。 テレビでは分かりませんが、傍で見ていると、選手のスピードがものすごく速くて、こんなに首を左右に動かしたことがないと思うぐらい、首を振って観戦します。

 

また、娘を通して、医師や大学教授など、娘がいなければ接点が無かった職種の人との出会 いがあり、友人として付き合えるようになりました。

 

九州に住む、ある友人の家を初めて訪問したとき、あまりにも大きくて、入り口がどこか分かりませんでした。 お食事を作るお手伝いさん、お掃除をするお手伝いさん、子供のお世話をするナニー、と、 別々の人がいて、これがセレブというのか!と、感動しました。

 

私は、娘が誕生するまで、知的障害についての知識がありませんでした。 知的障害の人は、何も分からない人と誤解していました。 確かに算数などの勉強は出来ませんが、感情面は皆さんと全く同じです。いろんなことを考えています。

 

最近、私がドキッとした詩をご紹介します。

最後に私がとても好きな詩をご紹介します。 

 

娘が私たち夫婦にもたらしたものは絶望ではなく希望です。

また、私は娘から勇気をもらいました。

無償の愛というものも、娘から教わったように思います。

Life is adventure

私の冒険旅行は有香の誕生と共に始まりました。

そして、これからも続きます。

ご静聴、ありがとうございました。


この授業に関する記事が翌日の新聞に掲載されました。

 

【記事から一部抜粋】

〇〇〇〇〇さんは、高等部1年生の娘有香さんが書いた詩を披露。「娘は障害があっても、みなさんと同じように感情が豊かで、いろんなことを考えています」などと語りかけた。

有香さんの詩を朗読した◆◆◆◆◆さん(15)は「隣の学校の様子が分かってよかった。独特の感性でつづられた詩はとても面白かった」と話した。