愛された記憶

田辺聖子さん (平成21年1月30日『この人にトキメキっ!』より)

『一葉の恋』より抜粋
子供のころの贅沢の記憶が、のちのちまで人間が生きる上の、支えになるというのは、こういうことなのであろうか。
しかし私はこの頃、こう考えるようになった。
贅沢の記憶なのではない。愛された、という自信の記憶ではないか、と。
そんなにまでしてくれたという、オトナたちの愛を、人間は大きくなっても心の支えにしているのではなかろうか。
子供のときに味わった後悔や苦悩や挫折感などは、オトナになってからの人生航路のある種の道しるべになるが、「愛された記憶」は、人を支える。
(私はこんなに愛されたのだ)という記憶が、のちに人を救う。